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Research/Recent results のバックアップソース(No.7)

&size(18){&color(blue){''最新成果を紹介します    ''};}; (研究成果のリストはこちらへ'''   [[Papers]]''')

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**次のトピックス [#x1dd504b]

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**光による相転移現象で2つの秩序が時間的に分離して変化/回復することを見いだしました [#x1dd504b]
"Temporal decoupling of spin and crystallographic phase transitions in Fe(ptz)$_6$(BF$_4)_2$", '''Hiroshi Watanabe, Hideki Hirori, Gabor Molnar, Azzedine Bousekksou, Koichiro Tanaka  ''',  
Phys. Rev. B Rapid Communications, で出版予定(accepted)~
(2009.4.20)
 

''研究概要''~
 本研究ではスピンと構造が競合した相転移現象を示すスピンクロスオーバー錯体Fe(ptz)6(BF4)2において、相転移温度近傍で光および熱的に作られた高スピン状態からの緩和ダイナミクスを観測することにより、二つの相転移現象を個々に観測することに成功した。
''研究内容''~
スピンクロスオーバー錯体Fe(ptz)6(BF4)2においてS=2の高スピン(HS)状態とS=0の低スピン(LS)状態の間のスピン転移と同時に構造相転移(HT⇔LT)が起こる事が知られている。しかし10K/min以上で急冷すると構造が変わらずHT構造のままLS状態になることが知られており、スピンと構造の競合が起こっていると考えられている。私達はこのスピンと構造の競合状態を明らかにするため、ヒステリシスを伴う相転移点近傍での単結晶試料を用いた磁化率測定および過渡吸収測定を行った。過渡吸収測定においてはポンプ光として波長532nmのレーザー、プローブ光としてはハロゲンランプを用いた。
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Fig. 1(a) にヒステリシスループ内における熱的に作られたHS状態の時間発展を示す。132 K以下では急冷状態であり、時間とともにHS状態からLS状態へと緩和していく様子が観測された。縦軸はHS割合、横軸は光照射停止後の経過時間を対数をとって示している。緩和時間は温度の上昇と共に長くなっていき、132 Kでは20時間の間には緩和が見られなかった。次にポンプ光照射によって高スピン状態を作り、光照射を停止後の光誘起HS状態の緩和ダイナミクスを吸光度の変化を用いて観測した。その緩和の温度依存性をFig.1(b)に示す。光照射によって作られた光誘起状態から中間状態を経て、光照射前と同じ低スピン状態へ緩和するという二段階緩和をしているのが分かる。122 K以下では温度の上昇とともに中間状態の寿命が減少していく。122 Kで中間状態の寿命がほぼ0になり、その前後でHS割合が大きく上昇し、122 K以上では温度の上昇と共に寿命が伸びていくのが観測された。
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中間状態および急冷状態の寿命の温度依存性をFig. 2に示す。122 K以上では両者の緩和時間τは共に臨界緩和をあらわすべき乗則従って発散した。臨界温度Tc=132 K ± 0.2K、臨界指数Δ=2 ± 0.5でうまく再現できた。スピンクロスオーバー錯体の相転移現象はIsing-like modelを用いて説明されることがあるが、Δ=2± 0.5という値は、2Dおよび3DのIsing modelにおける臨界指数1.25、1.75という値と同じオーダーである。高スピン状態の寿命の温度依存性から122 K以上では急冷状態と中間状態は同じ状態であると考えられる。
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Fig. 3に緑丸で常温から80 Kに急冷した後、10 K/minで昇温した時のHS状態の温度依存性を示す。急冷状態のスピン転移温度は122Kであり、Fig. 3に黒丸で示す様に1K/minでゆっくりと温度を昇温させた時のスピン転移温度137 Kとは異なっている。またFig. 3に赤い四角で中間状態のHS割合の温度依存性を示す。急冷状態のスピン転移温度である122 Kにおいて中間状態のHS割合が大きく変わっており、このことからも中間状態と急冷状態は同じ状態であり、スピン状態に関わらずHT構造をとっていると考えられる。また赤外吸収スペクトルからも中間状態においても急冷状態と同様に1825cm-1にHT構造特有のピークが観測された。
このようにおける相転移現象と理解するためにはスピンと構造の二つの相転移現象を考える必要があると思われる。122Kおいては光誘起状態(HS-HT)からLS状態である中間状態(LS-HT)を経てLS状態(LS-LT)へと緩和する。この過程においてはスピンと構造の分離が見られる。122 Kにおいて中間状態はLS状態からHS状態へと変わる。そのため122Kから132Kでは光誘起状態(HS-HT)からHS状態である中間状態(HS-HT)を経たLS状態(LS-LT)への緩和が観測され、この過程においてはスピンと構造の相転移が同時に起こっている。132KでLS-LT状態からHS-HT状態へ相転移がおこり、基底状態が変化する、そのため132K以上ではHS-HT状態からの緩和が観測されなかった。






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**水のテラヘルツ領域の複素屈折率の精密決定に成功しました [#x1dd504b]
"Origin of the fast relaxation component of water and heavy water revealed by terahertz time-domain attenuated total reflection spectroscopy", '''Hiroyuki Yada, Masaya Nagai, Koichiro Tanaka  ''' 
#ref(http://www.sciencedirect.com/science?_ob=ArticleURL&_udi=B6TFN-4TDVMGX-7&_user=10&_rdoc=1&_fmt=&_orig=search&_sort=d&view=c&_acct=C000050221&_version=1&_urlVersion=0&_userid=10&md5=973eb1cb6268a90f0f137541ef941057,, Chemical Physics Letters 464, 166-170 (2008).) 
(2009.3.20)
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水は科学において重要な物質であり、これまで多くの科学者が研究にとりくんできた。その過程で水の特異性が明らかにされてきた。例えば、4℃で密度が最大になることや異常に高いプロトン易動度などの性質があげられる。これらの性質の起源はいまだ明らかにされていないが、水の動的構造に起源を持つと考えられている。

水の動的構造とは、液体の水を構築する水素結合ネットワークそのものと、サブピコ秒(ps=10-12 s)で起こる水素結合の生成消滅過程のことである。最近の研究では、ネットワーク構造よりむしろ揺らぎが水の特異的な性質に重要な寄与をしているということが明らかになってきている。

これまでの水の動的構造の研究においてはラマン分光法を用いた構造の研究が主であった。そこで、この揺らぎを解明することが強く求められている。そのための手法として、最近の超短パルスレーザーの発展で可能になったテラヘルツ時間領域分光法(テラヘルツ=THz=1012 Hz=33 cm-1=4.1 meV)が期待されている。この方法は赤外分光に属し、選択則からいって、揺らぎを敏感に検出できる方法である。しかも、電場の実時間測定であるため、サブピコ秒領域の分極の時間相関関数を直接測定でき、複素誘電率をクラマース・クロニッヒ変換なしで求めることができるため、従来のフーリエ変換赤外分光とは違って、小さい強度を持つモードであってもつぶさに調べることが可能である。実際、テラヘルツ時間領域分光法を用いて水の研究がなされてきたものの、水の吸収の強さから、測定は困難を極め、限られた周波数領域(~2 THz)でしか行われてこなかった。この技術的な不足から、テラヘルツ時間領域分光法は水の動的構造研究に強力な手法であるにもかかわらず、その特長を十分発揮されずにいた。~
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#ref(water1.jpg,center,60%)
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そこで、本研究では、水などの吸収の強い物質の複素誘電率の精密測定に適した方法として、テラヘルツ時間領域全反射減衰分光装置を構築し、その広帯域化に取り組んだ。特に全反射分光法に特化した温度可変装置を独自に開発し、水の精密な複素誘電率の温度依存性測定を初めて可能にした。上図に広い周波数領域の水の複素誘電率を示す。最も低周波には20GHzにピークをもつ回転緩和モードが存在する。本研究ではその高周波側の1-2 THzに存在する「速い緩和モード」の正確な抽出および温度依存性の精密測定から、先行研究とは大きく異なり、「速い緩和モード」温度依存のほとんどないモードであることを明らかにした。この結果を過去の超臨界水のマイクロ波分光の結果を組み入れて検討した結果、このモードは常温常圧で過渡的に生じている水素結合のない自由な水同士の衝突過程に起因することが強く示唆されることがわかった。これは、常温常圧で自由な水が存在していることを示す。これらの結果は、最近報告されたRaman induced Kerr effect spectroscopy およびX線発光分光の結果と定性的に一致する。

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